リリュリ
WORKS EXCERPT
真理(天主の行ってしまうのをねらっていたが) 行ってしまったの、爺さん?……(ポリシネルの頸に飛びついて) さあさ!あたしをつれて逃げてよ!……
ポリシネル な、なんだって?
真理 あたしをつれて逃げて!……早く!早く!逃げましょう!
ポリシネル ええ!とんでもねえ!いやあ!大変なことじゃ!……爺さんかんかんに怒るだろう。
真理(地だんだを踏んで) あたしもうたくさん、もうたくさんだわ、あんな爺さんだとか、王様だとか、坊さんだとか、大臣だとか、ブールジョワの太っちょだとか、外交官だとか、新聞記者だとか、操り人形だとか、思想家だとか、どてっ腹だとか、神々だとか、爺(じじい)だとか!……たくさんだわ、奉公するのはたくさんだわ!たくさんだわ、たくさんだわ、嘘をつくのは!あたしは生きたい、歌いたい、踊りたい、走りたい、笑いたい……従兄(にい)さん、醜い、せむしの、曲がった、それでも、淡白で気持ちのいい従兄さん、あたしあんたがもっと好きよ。あの人たちからあたしを救ってちょうだい!今にやってくるわ、あたしを閉じこめて、修道院に入れて、口籠(くつご)をはめ、貞操帯をはめてしまうわ……あたしを伴れて逃げてよ!行きましょうね、笑って、本当のことを人に言って、詰まった鼻をあけてやり、塞いだ眼を開いてやり、牢に閉じこめられた人々を出してやり、縛られた人々を解いてやり、燻ぶった脳味噌の中に光明の火花を入れてやり、殿堂や王座を打ち壊し、破った闇をつらぬいて星空の笑いをかがやかせてやりましょう……
ポリネシル まあ静かに、静かに、それじゃあんたはおれをひどい目に会わせるね、従妹(いとこ)。おいら留置場にほおりこまれることになるぜ。
真理 けっこうだわ、ポリさん!二人いっしょの寝床で寝るでしょうよ……ポリ、ポリ、あたしの可愛いひよこ(プーシ)、ポリシネル、あんたが絞首刑になろうと、八つ裂きにされようと、あたしはどこまでもあんたに操を立てるわよ……愛しあいましょうよ、他のことはどうでもかまわないわ!
ポリシネル いや!とんでもない、おれは大きにかまうね。
真理 二人だからね、あんた!あたしあんたといっしょならいつでも火刑(ひあぶり)台に上がるわよ。
ポリシネル 火刑台!ブルルッ!……二人でいるのは、たいへんけっこうだね、そりゃもちろん、あの台の上で……しかし……背中に汗が出てきたぞ……おれあひとりでいる方がましだね、もっと暑くないところで。
真理 まあ!臆病たれ!小兎!羊の心臓!意気地なし!あんたはいつでも同じね!あんたは鞭が怖いのね、あんたは笑ったり、茶化したりできるけれど、まるで小学生のように手で口にふたをしてやるのね。自由な皮肉と笑いの先生だった、偉かったあんたのお父さんがた、大ポリシネルたちのように、エラスムスやヴォルテールたちのように、あんたは用心深いね、とても用心深いのね、あんたの大きな口は、嘲笑(わら)ったかと思うと
もう閉まっちまうのね……立派だわね、あたしの恋人たちは!あの人たちは自分の知性とずぼんさえ助かれば、他のものなどはどうでもいいのよ。あたしの愛があの人たちを自由にさして上げるのに、あの人たちはあたしを囚われたままにしておくのよ……ああ!あんた方はあたしを愛していないわ、そうよ、あんた方は真理を愛するしかたを知らないのだわ、あんた方は自分の身を愛するだけだわ。あたしを救うために髪の毛一本だって危険にさらしはしないでしょうね……笑い、あんたは狐よ、そうよ、ライオンじゃないわ……笑いなさい、笑い上戸たち!その罰にはね、あんた方は自分の網に嘘がひっかかったのを笑うことはできても、けっして、けっして真理をつかむことはないのよ。あんた方は真理といっしょにいるところをひとに見られるのが怖いんだから、あたし、あんた方の伴侶(つれあい)になるのはまっぴら、昼間は、あんた方の手をとってあげたり、夜は、あんた方の眠りをまもってあげたりするのはよすわ。笑い上戸たち、あんた方はひとりぼっちになるわよ、虚空(うつろ)の円天井の下で、あんた方の笑いとさしむかいで。その時になって、あたしを呼ぶでしょうよ。でも、あたしもう返事はしませんよ、あたし猿轡(さるぐつわ)をはめられているでしょうから!……ああ!いつになったら、恋人はくるのかしら、偉大な征服者の笑いは、その咆哮(うなり)であたしを蘇らせてくれるような!
ポロニウス(演壇に上る) わが親愛なる同胞諸君、あらゆる岸、こちらの岸、向う岸、さらに第三の岸(というようなものがあるかどうかわからないがそれはどうでもよろしい……)の兄弟たち、すべての人間はただ一つの胴体にすぎないのであります……男子も女子も……(人々はげらげら笑う)あらゆる幸福、あらゆる名誉において……未来におけるこの結合を祝福するために、私はここに参ったのであります。未来、それはけっして明白ではありません……いや、いや、諸君は私の申すことがよくお解りになります……さればこそ、この結合が、じつに魅力のある、けっして要求がましくない、けっして邪魔にならないゆえんであります。乾杯や宴会におあつらえむきの題目、そういうことには私は詳(くわ)しいのであります。私は平和会議の一代表であります……(彼は自己紹介をする)ポロ二ウス・モデスト・ナポレオン(ナポレオンというのが私の洗礼名でありますが、人がびっくりしないようにと、モデストというのをくっつけた次第であります……私は単純で善良な人間であります……)私の腕章や勲章はごらんのとおりであります。(それを示す)これがカムチャッカとカテガット、こっちがカテガットとゴオリザンカです。(向きをかえて背中を示す)まだここにもあります。(満足して向き直る)まったくの名誉で、けっこう至極であります。何も責任はないのですから……さて、わが友人、わが兄弟諸君――明日の、それとも明後日のわが兄弟諸君――私はこの偉大な橋に敬意を表しに参ったのであります、この橋(スポン)、この橋(ズポン)、このかくも長いこの橋(スポンシロン)華麗なこの橋(スポンポンプー)、この橋(スポン)を……
一同 ポンポン……
ポロ二ウス ……この愛と同盟との橋(スポン ダムール エ ダリアンス)、大空にかかった虹のように宙によこたわる、来るべき偉大な日の象徴。その日は来るでありましょう!来るでありましょう!……しかしわれわれは急いではおりません!その日には国家は武装を解き、国という牢獄の壁が崩れ落ち、各民族が互いに抱きあい、略奪者の狼とやさしい牝羊とがやさしい眼を見交わしながら牧場の草を食み、毎日、労働者たちは朝寝坊をし、金持ちがその寝床と酒倉とを労働者に分かち、武器や軍隊や条約を博物館に納め、収税請負人、為政者、取引き商などが陳列館に片付けられ――牝鶏に歯が生えるでありましょう……かかる日は来るでありましょう、参りましょう、必ずや!……しかしわれわれはまだそこに達していないのであります。一歩一歩と進まなければなりません。われわれは、時を告げる鐘がまだ鳴らないのに、戦争とか、貧困とか、取引とか、海賊などを諸君から奪い去るなどという不敵な考えはもっていないのであります。おできは子供にとっては必要な病気であります。若い時が過ぎなければなりません!痒いところを掻きながら、その時を過ごしましょう。
驢馬(ころがって)ヒァン!ヒァン!
ポロ二ウス さて、わが親友諸君、今日のごとき幸福な時代においては、兎のように、どのソオスでシチュウの味付けをするか、その選択が問題であります。諸君は撲殺してもらうのに、地上がよいか、地下がよいか、空中がよいか、それとも水中がよいのですか?私としましては、水は好かないので、甘いぶどう酒がずっといいのであります……諸君は腹に丸い弾丸(たま)を受けたいと思いますか、尖ったのですか、褐色のですか、金色ですか、霰弾ですか、砲弾の破片ですか、巨砲弾ですか、臼砲ですか、それとも清潔で気持ちのいい銃剣ですか?どちらがお好きですか、臓腑(はらわた)を出すか、炙(あぶ)り殺しか、八つ裂きか、粉砕するか、煮るか、炙り焼きか――それとも最新式で電気焼きか?……諸君のためなら何ひとつ拒みはいたしません。われわれが諸君のためを思って排斥するのは、野蛮と、平凡と、潜水艇と、臭いガス、これを要するに、躾(しつけ)のわるい死に方であり、非文明的な戦争であります。しかし諸君は戦争で何も損をすることはありません。われわれは戦争を文明化するのであります。戦争に磨(みが)きをかけましょう。諸君、さらにいっそう磨(みが)きましょう!戦争がなかったらわれわれはどうなることでありましょう!戦争があればこそ平和が価値を有するのであります。そして戦争によって、われわれは in(イン) saecula(セク―ラ) per(ペル) pocula(ポクラ) 国際連盟を組織するのであります。なぜかというと、すべてが互いに関係しているからであります、よく私の言うことをお聞きください。国家がなければ国際連盟はありえないし、国家がなければ戦争はないのであります。戦争がなければ、国家はありません。だからして、万事まことにけっこうであり、さらにいっそうよくなるでありましょう。われわれを信頼してください!われわれにお任せください!われわれは、黒や、白や、権利や、力や、平和や、戦争などを巧く混ぜ合わせて、諸君のために戦争的平和や、平和的戦争を製造し、諸君のために自然をじつに見事に美しくするでありましょうから……諸君には全く何もわからなくなるでありましょう。
群集 ブラヴォ!すてきだぞ!ポロ爺さん。ナポ、淫売(ラボー)!なんておしゃべりだ!……まるで袋のように口に言葉をつめてやがらあ。
(ポロ二ウスは続けようとするが、彼の声は群集と荷物車の通行の音に消されてしまう)